20110121

「落語とコーチング」

ライター:なお

1日しかない正月休みの晴れた午後、録りだめをして大切にしまっておいた1枚のD
VDを引っ張り出してテレビの前に陣取った。
「柳家小さん・花緑 時空を超えた二人会」というタイトルのその作品は、人間国宝
で2002年に他界した落語家の五代目・柳家小さん(やなぎや こさん)師匠と、
その孫で現在大活躍中の柳家花緑(やなぎや かろく)師匠が、高座と映像を駆使し
対談をしたりリレーで落語を演じたりする、興味深い内容である。
映像に惹かれながらも、私は昨年秋にお邪魔した花緑師匠の高座を思い出していた。
パートナーである盲導犬を伴って、最前列のほぼ中央という絶好の位置に座り、スピ
ーカーからではなく高座から直接響いてくる師匠の声をびしびしと感じていた。上座
、下座を見ながら顔の位置を変える動きさえ、しっかりと感じることが出来る。
最も驚かされたのは、何でもない雑談をしていた前半の「枕」から、突然落語本題に
入った瞬間だった。
ほとばしる力というのは、こういうことをいうのだろうか。まるで師匠を照らしてい
るスポットライトまでが少し明るくなったのではないかと錯覚するような、はじける
ような、力強いエネルギーが高座に満ち渡っている。
声のトーンも大きくなって、あぁ、この人は本当に落語が好きで、落語をするために
産まれてきたんだな、と、そんなことを感じながら、すっかりその世界に引き寄せら
れていった。

DVDの映像の中では、小さん師匠が大切な弟子であり孫である花緑師匠にやさしく
語りかけている。
「噺家は、清廉潔白でなければならない。嘘をつく奴は噺家になってはいけない。嘘
つきは嘘つきが芸に現れる。万事素直な人は素直な心が芸に現れる。」
全ては、その人のあり方から始まる。今は亡き人間国宝は、コーチである私たちにも
通じる大事なメッセージを残してくれた。
私はこれからも大好きな花緑師匠の高座に足を運ぶことになるだろう。万事素直。祖
父から受け継いだ心意気を抱いて、ほとばしるエネルギーを高座いっぱいに飛ばす。
その愚直な鍛錬を清廉潔白な心でしっかりと受け止めることは、コーチとしての私の
修行の一つにもなる。